てりり◎物語、梗概集

てりり◎物語、梗概集

筋、道理。重層世界の諸要素。ナラトロジー

そうして僕は、サラダを食べる

しんどい気持ちに蹴りを入れて馬車馬のように走りたい。痛みの刺激で脳は活性化し光の速さで家へと帰る。もうだめだ今日は疲れた。死んでしまおう死という名の眠りにつこう。そして僕は布団に入り眠る。これが死だ。死んだ僕は夢をみる。夢はいつでもどこでも誰からも不定形でいついつともなく訪れる荒涼とした散歩道。行く手にかかる虹に向かって歩いて行くと広い道がありその先に駅もあり塔もあった。あたり一面の色々なものを物珍しくみて回っているとアニメの世界の人物達が談笑している。歩きながらクレープを食みつつ談笑している。肩を組んだり仰け反ったりスケボーで右往左往しながら談笑している。そんな談笑をしながら彼らの一人が車に撥ねられた。車は止まり運転席から男が降りてきてうろたえる。助手席から降りてきた女が悲鳴をあげて泣きながらもんどり打って転んで死んだ。男は女を振り返ると驚愕で心臓が止まり死んだ。撥ねられた一人を介抱していたアニメキャラ達はその時たまたま流行していた風土病でばたばた死んだ。そして撥ねられた者もまた苦しみながら死んだ。僕はそれらの光景を見ながらふっと溜息をつくと諸行無常万物流転を唱えつつ虹へ向かって再び歩き出した。炎のように燃え盛る街が視野に広がりやがてその中に包まれる。暑い。ただただ暑く燃えてしまうのではないかと懸念しつつ歩を進める。人の命の輝きを焼きつくす灼熱。この街では人は燃え盛る火炎によって活力を得て猛烈な働きを見せたかと思うと燃え尽きてすぐ灰と化し死ぬ。これが江戸っ子だと納得しながら見物する。どこにも水は無い。こんな事ではこの街の滅亡も今日か明日か知れたものではない。無造作に地べたの灰を掴んで枯れ木に撒いた。きれいな花が咲き乱れ遠路はるばる来た甲斐が有った。喜び勇んでいたものの花は即座に燃え尽きた。こんな街に用は無い。すっくと立ち上がると次なる街へと歩きだす。虹よ虹よ何処よ。虹の彼方が見たい思いは高まり果てなくずずいと足を動かす。虹の彼方を超えるにはひとまず虹の麓へ辿り着かねばならぬ。しかれども何故かどうにかどうしても虹の麓に辿り着けず振り返れば早十余年の時が経っていた。その間歩きながら出会い結ばれ子を成し別れ今また一人道を往く。世界各地を股にかけあらゆる言語民族とまみえ戦い勝ち残りまだかまだかと虹へと向かうただそれだけの過ごし道。ついぞ現れざる虹の先やついに今この眼の前に七色の橋が見えてきた。これかこれだと一目散に駆け上がりはたと気付いて確かめる。石橋を叩いて渡る最上川。叩いて壊した七色橋。あっと言う間に崩れ落ち奈落へ暗転。すわ気付いたのは寝床の布団。胸の上には黒猫が居てなごなご擦り寄り顔を舐める。お腹が空いたかこの子はと、起き上がり、カリカリまんまを食器に入れて水を用意しシャワーを浴びる。湯に打たれながら思い巡らす。ああぼんやりと覚えているよな、けれど霞に消えそうなこの、その、あの思いは何だったのだ。何やら冒険したような勇ましい気持ちの残滓が残り、けれど思い出す事叶わず、ただもう意識は明晰に世界の形相を捉え、不本意でつまらない現世に還元された。絶え間ない慟哭、永久の不安。あやふやな還俗。一切苦。そうして僕は、サラダを食べる。