てりり◎物語、梗概集

てりり◎物語、梗概集

筋、道理。重層世界の諸要素。ナラトロジー

落書き


天才と名高い画家の落書き、それはアイデア帳に挟まれていたもので今後のモチーフになる萌芽を感じさせるものではあったが、けれど今のところその絵が精緻に描かれた事は無い。
ふと、手にとったものにそれが挟まれていて少女は感銘を受ける。このテーマは過去人類史に無いものだ、それを描かねばならぬと筆を執る。
描かれた世界は曼荼羅世界、真理克明、万物流転。世界はこの絵に起点する。
世界の有り様を一変させた聖典のようなその絵に基づいた価値観は流布され浸透し世界そのものとなる。けれどその源泉はその聖なる御神体であるところのその絵では無い事を研究者は突き止めた。世界の原点は簒奪されたもので旧世界の別の作者によって齎された落書きこそが真なる聖典として求められ、奪い合い争いは世界に蔓延する。世界の滅亡を防ぐため、旧世界の画家派の勢力の主張する真の聖典をこそ失わせ、少女によって描かれた聖典を正当なるものとする勢力はその在処を追い求め、突き止め、そして燃やす。
複製の無い唯一物であった落書きは失われ、新世界は新世界としての価値を安定させ、世界を後の世に継ぐ事ができた。
真の聖典を失った正統派は少数派として世界に留まり、けれどその本意を全うする為に世代を継承し、行く末の世の価値体系を一変させ世界は変転しどちらの価値観をも失われる時を以って、この物語は終焉を迎える。