てりり◎物語、梗概集

てりり◎物語、梗概集

筋、道理。重層世界の諸要素。ナラトロジー

壊れ続ける

 草花を愛す少年がいて、人の為に生きている事を当然だと思っていたのだけれど、彼の常識はこの世界では通じなくて、ただ彼は否応なくこの世界からの拒絶を受け入れ続けては壊れていった。
 彼には誰も味方がいなかったので、彼はいつまでも瓦解していく自我をなんとか繋ぎとめようと必死に世界と自分との縁を見い出し続けた。その過程で、彼の存在や、彼の意図や、願いや、そういったものを汲みとれる人にはまるで出会える事も無く、ただひたすらの徒労、絶望、そして人という存在そのものへの諦念へと至り、彼はただ静かに死を願うようになった。
 彼が「人」から認識されたのは、彼が死を目前にした時だった。彼という存在が生きられない世界だった「この世界」から彼がそっと去ろうとした時、人は無慈悲にも彼を生かした。彼にとって何の価値も無いこの世界に無理矢理にでも縛りつけ、けれど彼の魂は生かさず、彼本来の在り方を殺してでも「我々は生き続ける事を肯定し、死を防ぐ」と宣言したのだ。結果、彼は自らの魂に殉じる事を阻害され、何らの望みも無い生ける屍として、幽閉された空間で、ただの空白となって、拡散していった。肉体が損壊し物理的に存在出来なくなるまで。
 永劫に等しい無慈悲を浴びて、彼の魂は死ぬまで犯され続けた。そして人は今日も、命を大切にする為ならば、誰かの魂を殺すことも厭わない世界を紡ぎ続けている。

wrote 2014/1/31