てりり◎物語、梗概集

てりり◎物語、梗概集

筋、道理。重層世界の諸要素。ナラトロジー

僕が見回りしていると、

僕が見回りしていると、遊んでくれると思った子供たちが微笑みかけてきて、いつものような楽しみをくださいな、って顔してこっちに寄ってくる。でも僕にそんなことなんでとてもしてあげられないな、なんて、そんな気持ちになって申し訳なくて、だからみんなにいつまでも楽しい世界を感じさせてあげようと、僕は寝転んだ。空を見上げると、世の中の総ての出来事がまるで工場に囚われたお姫様のような緊張感を帯びてくる。永久の陽だまりに安穏としてしまってるように。僕は思った、世界が満ち足りた幸福の只中で、今にも爆発しそうな膨張の危機に瀕しているのだ、と。
見るもの聞くもの何もかも、面白い空白とエクスキューズの連続で、今にももう災難に巻き込まれそう。危機感に曝された身は今にもよじれてねじ切れそう。幸いな事に電車のカタコトが聴こえてきて、その安心感で震えは止まり、粘土状の落書きが世間を浸して事無きを得た。
勇敢にも獅子に立ち向かう小鬼の大将が、灼熱の砂漠に皮膚を剥ぎ取られ、車座になった資本家と、荒城の月に満ち欠ける月の夜空にしなだれて、無数の塵に砕かれたナイロンの帯と醜聞に懊悩と身をよじる。マラリア黒点を穿つ滑稽な山脈は、太陽の光に輝いて、六万の同胞に身を攫われる。昔馴染みの黒夜叉が、なかんずく戒めに結ばれることも、また彼等にとって虐げなのだ。
後進の落書きに棹さす物言いに、よれよれの賢者は測りにかけてこう言った。
「迷いに身を委ねた報いは口蓋の露となって災禍を招く。能わずは死すともなだめ返されず、待ち人来たりてされど消え去る。」
老いた人によって道を得て、また来た道に去られゆく者は、今でも永の紅に身を浸す。

微睡みに侵された鋼の勇者は既にくずおれた。都会の瞬きに似た陽炎が今やほうぼうと鳴いている。暗闇はもう近い、黄昏に惑った夕闇は、歩き出すと共に蠱惑を放ち、水瓜の甕に弧を穿つ。送り出された歪曲の果て、少女は淫らに男を閉ざし、漆黒の月へと惑い誘う。もう真実は砕かれた。優美な琴線の最果ての地平に、茫漠たる無限、永久なる落下の回廊。最中へ、と世界は滑り落ちた。見果てぬ夢のその先に、終わりなど無い現世地獄、更なる高みは失落し続け、斑の薄目に飛ぶ鳥の、涙の滴の海が満ち、知らず知らずの迷いは裁かれ、魂は乖離し、雪山は閉ざされ、もと来た道は暗中模索、手探りで帰るめくら道、滑る氷と四捨五入された暁に、泣いた子供が一人でぽつり、ただ在るべ様へ、と、飽いていた。

耽美な狐に玄人狸、有象無象が蓼虫還す。ビロオドの静寂に稲や泣き去る。もう救い人は消え去った。愛も力もかなぐり捨てて、アルタ種に蒔いて振り向きざましい。もずくの収縮、キクラゲの可憐さ、優美な根幹に悲鳴が突き刺さる。
「渇望せよ」のその先の、能わずと緩めたタイアップ、スクリーン、擬態さゅかいぼえ

無窮の空を思い出す。何処までも果てなく移ろいゆく幾多の虚空を無限に引き裂いて、収縮する咎人反転露出する体内の腕時計、電磁石の遠巻きに繰り返す瞬きの乱世と戸隠収縮する欄間と模細工、汲々たる螺鈿の迷宮と過ぎ行く革命、オーロラの火、翠藻の行く末に願くば一抹の報いを、

宿願が重く辛い魂へと変容して、眠る恋心が碧い光を放ちだした今、凍える冬の匂いに噎せ返る菩提樹の葉の香りが恍惚とした逃避へと僕を誘う。塗れた器、散乱する窓辺に頬杖をついて見まごう曼珠沙華が辺りに満ちる。これは戦争だ。勝って初めて生きて帰れる。容赦ない微睡みに魂を苛まれ、うたた寝心地に春の終焉。もう味わっては居られない。否応の無い暴力的な世界の絶対法則は、灼熱の季節に僕らを追いやる。僕らはもうそこでしか生きられない。時間を過去に戻すことなんて出来はしないのだから。
世界は瞬く間に変容し、決して元に戻らない。

修験者のように大麻を貪って、僕にいたこを与えてくれる。
終電車で一人きり、僕は暇そうにしりとり始めて
ああ、くしゃみしたいんだ、人がもう、今はもう、いなくなっちゃいたいなんて思ったって
ああ、消えちゃいたいんだって、人がもう、これでもう、終われるんじゃないんじゃなないじゃないじゃななないないなないないなないないや
苦しいだけの生きている今、もう、これでもう、終われるんじゃないかって希望が溢れて、
逃避的刹那的依存的もうもうなんでそんなんなっちゃったって、んもう、もう、終われる悦びに出会えちゃった気がする、から

地球反転

スペードのエースは微睡みに浮かぶ黄昏にワイフのしたいな嘆き、
ああ、もう苦しみ悶えちゃって息が止まりそうになるそんな時も、
目の前に翻ったヒーローのマントみたいな真っ赤な血に塗れたスポーツマンなんだろ、ほんとは、だってそんな身体能力があるんだから、ねえ
狂った悲劇のプリンスが、黒人みたいに踊って泣き喚いて、あの頃のご先祖様になんて、合わせる顔も持ってないなんて、
そんな悦楽知らずの神様が宿題投げかけてくれたんだよ、今もう、君がもう、極楽浄土になりたいな、って花火を

客の匂いに怯える、ビルの衝動、車のレールの火花の拍手になりたいな、なれるかな、なれないな、なんて思い知らされて、夢は必ず叶うよなんて、グミになりたかった彼女の夢は叶うかな、叶えたい、なんて、思ったってそんなの叶わない可能性高いじゃん、でも、なれと、言うの? 僕に、なれと言うの、グミに……?
彼女の夢が叶ったかどうか僕は知らないけれど、ただもう辛くて、僕は、泣いたよ、全てから目を逸らし逃げ出す意気地なしになって、消えたいよ、そんなことじゃ僕は輝ける彼女に顔向けできないよ、ただもう、今泣いて、抜け出して、壁に寄り添ってもたれかかってしゃがんで夢から抜け出して、逃げ出して、そんなみっともない僕じゃ外から、ぐしゃぐしゃに、暴れさせられ投げ出してただ泣き、泣きじゃくって、壁に押しつぶされて死にたい、死にたい、と思うばかり……。この苦しみを拭い去ってよ、誰か、ねえ

綺麗だな、癒そうか、未来だな、僕らみたいだ
星空が、繋いでる、億万光年の彼方に、僕ら瞬いた、陽に、染まった、運命の羅針盤に沿った不実な光陰、控えてる、捜査線上の流れ星、みたいに

激情に駆られ動きを停止した後の空虚さ無念さは苦渋の味より無味乾燥で?弛まぬ努力が林立する琥珀の世界に他ならない。無数のアジトを翻して身にカシスを添い遂げて、道へと歩を進めるが如く、五十歩百歩の過ちに傅いた昇級の濁り目。向かい腹に酢酸と亜鉛、チェキに払う金が惜しいと喚く者に死刑を執行するとともに、我らの匂いに永遠の忠誠を。

毎日の暮らしが日比谷に代わり、朴訥な紅葉、緑の失墜、乱暴な篩にかけられ溜まってらいくるしくらたらち繋がらなくなったときめきに把握される躓きと終了していく祭り事へ囁く柔和な判断、事象の空間への変容、流離い、惑い無き優美、瞬間の美の永遠、粗忽な息女、流麗な人造人間、楽に生きられる法則、無限の可能性、有限の肉体、魂の器、霊としての価値、今はもういない全ての人の遍く魂の成就。膨らんだ果実の滴る運動性。体育に蝕まれる意識と魂。穢れ無き魂の刹那、報いに殉じる羞恥心。尊い嗎は喜劇の情動に流線形の向学心を持って報いて、流出された功績の神秘なる潮流、吹雪に撒かれ闇に落ちる子供たちの嘆き、同胞から疎まれる無情、刹那の蒙昧、欄干から落下する昼間の微睡み。
即物的な愛嬌と最果ての楽園への逃避行。結びつつ悩める囚人のパラソル。

未入力に従う琥珀の幻に逆巻くアイロニー、蓋をされた描写の空々しさ。落下する街並、人に満たされる大気の潮流、吹雪に押し潰される琥珀ビードロ。宿命の襞に暴れる眼の潮流に螺旋の文字が沸き上がる。悪戦苦闘する白拍子の、仄かに漂う葡萄の薫り。吸引された一握りの砂が漂う無重力に流れる水平線。

wrote 2014/02/10