てりり◎物語、梗概集

てりり◎物語、梗概集

筋、道理。重層世界の諸要素。ナラトロジー


 幸いなことに僕の家は全焼し尽くし誰一人生き残る事は無かったのだった、僕を除いて。
 僕はいつも一人で裏山の空き地に佇みしげしげと星空を眺めたりしながらうたた寝したりして、そんな僕にはちょうどいい過ごしやすい気候の夜だったのだけれど、生憎家は火事で、全部煤まで燃えてしまったので、僕には両親も兄弟も猫も何もかももう残されていないのであって、だからこうして一人ぼんやりとしていた。
 周囲の人々は僕が返事をしない事に不満を持ったらしく、頬を叩いてきたり殴る蹴るの暴行を加えた挙句に僕が意識不明に陥るまでコンクリート片で頭部を強打したらしいのだけれど、ベッドの上の僕にはそんなことはもうどうでもよく、ただ心地良い裏山の空き地が懐かしい気持ちが寝ても覚めても忘られぬだけであり、それさえあればここで看病してくれているらしき級友の女性などどうでもよかったのだけれど、他に尋ねてきたらしき誰だったかはその娘の存在を喜ぶべきことだと言い聞かせる事に熱心なようだったらしい。
 ふと、町並みの中で歩いている僕に気付く。どこへ向かっているのか、何が為されるのか、そんな事は僕には何も判らない。ただあの裏山へ向かっている気がしてならなくて、だけれど山は切り拓かれてとうに無くなっていて、失われた全ては何処にいったのだろうと思えど答えは得られず、ただ無為に、全て無為に感じられる。風が冷たい。