てりり◎物語、梗概集

てりり◎物語、梗概集

筋、道理。重層世界の諸要素。ナラトロジー

僕の幽霊

 血まみれの部屋で目が覚めた僕は猫と一緒に旅に出た。
 血まみれの男たちが現れ、僕の猫を返せと騒ぎ立てる。だから僕は懲らしめてやったのだ。100万回の死を彼らに与えて。
 過ぎ去った嫌な思い出はなるべく早く忘れようとてくてく歩いていくと、猫が女の人について行ってしまった。僕は猫を追いかけ、必然的にその女の人と暮らし始めた。僕はその人の事をなんとも思っていなかったけれど、猫はその人が好きみたいだったから仕方なく僕はずっとそこにいた。
 何年か過ぎて僕は死んでしまった。なんという病気なのかわからなかったが、苦しまずに死ねたので幸運だったと思う。猫は悲しんで、僕を手厚く弔ってくれた。僕は幽霊としての人生を歩き始めた。死んでからも僕はいつも猫と一緒だった。
幽霊の僕と猫はなんとなく感じ合う事ができた。猫は時折じっと僕の居る方を見て、しばらくするとまた眠りにつくのだった。僕は猫がいればそれで良かった。
ある時、猫と一緒に暮らしていた女の人がひっそりと静かに息絶えた。理想的で幸福な死だった。猫は悲しんで、手厚く弔ってあげた。僕のそばに、彼女の幽霊が現れた。
「やあ、ひさしぶり」
「おどろいた、あなたずっとここにいたの?」
「もちろんだよ」
僕らは生前よりも仲良くなって、一緒に猫を見守りながら暮らした。猫は一人になってから、とあるお屋敷にあがりこみ、そのまま世話をして貰えるようになったので、僕らは一緒にそのお屋敷に暮らした。屋敷の人々は猫のおかげで温もりを感じながら過ごすことができるようになり、僕らも一緒に温もった。とても幸せな世界だった。
おわり。