てりり◎物語、梗概集

てりり◎物語、梗概集

筋、道理。重層世界の諸要素。ナラトロジー

新しい空間

 目に見えている青色の空が裂けて紅色の空間が入り込んできた。紅色の空間からは見たこともない異様な存在が湧いて出て、僕達を食べだした。僕達は皆で一斉に彼らを倒し始めたのだけれど、倒しても倒しても彼らは紅色の空間から生まれ出て、一人また一人と僕達を食べ尽くしていった。ある時僕達は食い尽くされてしまった。そして彼らの世界が僕達の世界を染め上げた。
 僕は彼らに食べ尽くされた後、自分の自意識に気付いた。僕は僕の意識をこの世界に残している。僕の気持ちは僕が存在しなくなった後にも残るのだと、初めて知った。僕は生きていた頃、死んだらそこで終りなのだと思っていたけれど、僕は今ここにこうして意識を残している。魂だけの存在になった、と言うべきだろうか。僕は僕のまま僕となり、けれど元の僕では無い。そんな僕だけれど、僕はこうしてここにいる。僕以外の人達も死んだ後にこうして自分の意識を残しているのだろうか?わからない。僕にわかるのは現世の世界の物理的現実だけ。他の人が死んだ後に僕と同じように意識を残しているのかどうか、僕にはわからない。皆僕と同じように一人きりで存在しているのかもしれないけれど、僕には彼らの事は感知できない。僕はずっと一人きり。僕は僕のまま、僕達の世界だったこの新しい空間を見続ける事しかできない。僕は新しい空間によって染め上げられていく世界を見守り続けた。
 新しい空間に於いて彼らがした事というのは特に無い。ただ、僕達を食べ尽くした後、僕達同様食らい尽くされたあらゆる生物達、動物も植物も、そしてそれ以外のあらゆる物質、つまり生物以外の全ての物質も彼らは喰らい尽くし、世界を混沌とした紅色の状態にし続けていく事だけを彼らはただ続けた。あらゆる状態・あらゆる状況・あらゆる在り方が紅色に染まっていく。そして世界は消滅していった。
 地球が食らい尽くされると、星のあったあたりの「何もない空間」も食らわれていった。僕達人類が「無」だと思っていた状態には実は「無」という存在があって、彼らはその無さえも食っていったのだ。物事の根底からを覆し、紅色に染め上げていく彼ら。僕らはそれをただ認めることしかできない。
 宇宙の全てが紅色になって、侵食されきったこの世界は、紅色が飽和し、また異なる次元の世界へと新たなる侵食を開始しようとしていた。僕にはそれを止める事すらできず、ただ紅色が広がっていくのだなと思いつつ、そしてそのまま僕の認知できる領域の外へ広がっていった紅の海の中でただもう死と同義の永遠の紅色に浸ったまま、永劫の時を過ごすのだった。