てりり◎物語、梗概集

てりり◎物語、梗概集

筋、道理。重層世界の諸要素。ナラトロジー

懊悩

 どうしたらいいんだろう、誰も僕のことを理解してくれる事なんて無いし、とても憂鬱。その闇色の虹は響きあう鐘の音のようにカランコロン調和して僕の心を侵蝕する。不可侵の城壁はいとも容易く壊れてしまって、僕の中の暗黒は外に伝播する。僕を許してくれる人について、僕は許せることも無く、ただもう死にたい。死んで楽になりたい。

 人の輪の中で僕はぐるぐると回る。誰かが話している声が聞こえる。何を言っているのかうまく聞き取れない。ただ誰かが話していて、僕はその声を外側の世界から聞いているようにただただその音の周波数が微弱な振動となって肌に伝わる刺激を、声であるのだろうな、というくらいのゆるい気持ちで受け取っている。その刺激はただそれだけの事で、声という音になにか意味なんてあったかな、などという事を思うくらいで、ただそれだけが全てで、沈静化して、落ち着いて、終わってゆく。人の気配は消えて、僕はまた孤独に苛まれる。

 辛い目の前の出来事を乗り越える力が僕には無い。人の悲しみを見過ごして、なんの力にもなれず、ただやり過ごして、みすぼらしく踏みにじられて死にたい。
 
 僕は確か今日、回復していく為の行為を何かしていかなくてはならなかった気がする。そんな予定だったような、そんな気がして、だから朝から起きて目が覚めたこの瞬間に布団から起き上がらないといけない気がして、それでシャワーやらなんやらめんどくさい色々をこなしたような気がするのだけれど、はて自分は一体何をするんだったかな、と思い出せなくて、そんな気分から、また眠ってしまった。
 後で誰かからどんな不平不満をぶつけられるかわからない予測不能な恐ろしさに身を包まれて、悪夢に苛まれ、寝汗と疲労が著しく、眠るという行為の苦痛をひたすらに味わいそれに耐えるだけの拷問のような時間を過ごした。気がつくとそのあまりの苦痛から、気絶するように二度寝してしまった。本当の眠りがやっと訪れたのだと思う。
 
 ひどく雨に打たれたような、シャワーの水圧で身が砕け散るような気がして、僕は怯え、竦み、風呂桶の中で溺死しようとする。苦しくて息が吸いたくなって、うまく死ねなかった。また苦痛が続いてしまうのか。いっそ一思いに死ねたらいいのに。死ねてしまえればきっと嬉しいのに、死ぬのはなんて苦しいんだろう。僕は死への渇望と、その夢を手に入れる困難さと戦う努力、勇気、希望を新たにこの胸に誓い、また深い眠りへと落ちていく。