てりり◎物語、梗概集

てりり◎物語、梗概集

筋、道理。重層世界の諸要素。ナラトロジー

魂の世界

 僕は人に死を与えたい。人に生きる意味など無いし、また価値も無い。人の世の苦を駆逐する為に、全ての人に悦楽の死を齎したい。須らくこの世の為になる有意義な死を以って、あらゆる魂に報いを与えたい。だから僕は人を死なせる。どんどんどんどん、どんどんどんどんどんどんどんどん死なせる。いくらでも、絶やすまで、全て一切なにもかもに死を。
 僕が人を死なせ続けていると、ある時、狼に出会った。それは人の男だったが、魂は狼そのものだった。僕は彼を倒し、その荒々しくも雄々しく美しい魂を世界に捧げる事ができた。僕は得も言われぬ充足感に満たされ、絶対的なる希望を持つ事ができた。彼のように、全ての人を死に齎し、その魂を以って世界を救いたい。 
 そのうち僕は自分の狙う存在を相手にするだけでなく、自分では意識していない視野の外に存する、あらゆる”生命に価値を依拠することを信奉する存在”から狙われる事となった。都合がいい、こちらから出向く手間が省けた。僕は彼らを片っ端からなで斬りにし、全ての勢力を退けた。彼らの信奉をも内包し、彼らの魂をも以って、世界への供物としよう。残るは残党、優しく死へと誘ってやろう。
 そして僕はついに、あらゆる人に死を与える事に成功した。この世界はもう人の手に汚されることも無く、人もまた苦に苛まれる事もなく、その真実の在処である魂を以って、この世界そのものへと転化する事が出来た。世界はかつて存在した全ての人々の魂で満たされ、それを包含し、そして永久に存在し続ける事ができるだろう。万感を胸に、僕は刃で胸を貫き、自らの魂をもこの世界へと捧げ、崇高な霊の世界へと、吸い込まれていった。

 

wrote 2014/1/26